外来生物に開かれた国

近年、ヒアリやツマアカスズメバチのような外来生物の話題を聞くことが多くなりました。

外来生物というのは、人間の活動によって本来生息していない地域に侵入した生き物のことです。

鳥類のように自力でその地域に到達できる種は外来生物には含まれません。

① 外来生物は害か?

我々は、「外来生物は全て悪である」とは言えない生活を送っています。

例えば、国内で栽培される農作物や畜産物はほぼ全て国外原産のものです。

これらを否定すれば日常生活が破綻します。

そして全ての生物の国内への侵入をガードできるかと言えば、貿易立国をうたってきた日本ではそれも難しいでしょう。

物資の輸送をストップすれば社会的な活動が維持できませんし、輸送には必ず何かしらの付着物が存在します。

外来生物について重要なのは、その中で「効率的・効果的な侵入の予防」を求める態度です。

既に国内に定着してしまった外来生物では、侵略性(悪影響)の大きさが明白であるものについては駆除が計画されやすい傾向にあります。

しかし、一度定着したものを取り除くには膨大な予算と時間が必要です。

加えて侵入種の侵略性・影響が入ってすぐに分かることは稀であるため、後手に回った対応では損失が巨大になります。

予防に力を注がず、侵入したものにのみ対応していたのでは、船底に空いた穴を塞がずに水を汲みだすようなものです。

重要なのは未然の侵入防止であり、初期対応であり、その仕組み作りです。

次の侵入の阻止に力を振らなければ、どれだけ予算があっても足りません。

予防については、人の活動で分けた2つのルートを考える必要があります。

「意図的な持ち込み」と「非意図的な混入(ヒッチハイク)」です。

② 意図的な持ち込み

意図的な(目的を持った)持ち込みは、ペットや栽培品種のような主に生物の売買や利用のために国内へ持ち込まれるルートです。

持ち込みは意図的ですが定着が非意図的に起こったものにはアライグマ、ミシシッピアカミミガメなどがあります。

持ち込みも定着も意図的に行われたものではオオクチバス、マングースなどが有名な例です。

意図的な持ち込みの場合は、持ち込む人がその生物の存在を当然知っていますので、ある程度正確な把握と規制が可能です。

ペットや栽培品種のように意図的に持ち込まれる種に関しては、「ホワイトリスト制」での管理が今後は必要になるでしょう。

ある程度侵略性が低い(国内での繁殖が難しい)ことが確認されている種のみ持ち込みを許可する、あるいは繁殖力を奪った状態のものについては持ち込みや販売を可能にする、というような仕組みです。

一方で、何かが定着するたびにその種の持ち込みを規制するような方法を「ブラックリスト制」の管理と呼びます。

しかし意図的な持ち込みについてブラックリスト制を用いるのは、はっきり言えば計画が無いのと同じです。

世界には、既に知られているだけでも約1,750,000種の生物が生息しています。

日本は南北に広く、様々な気候の環境を有しています。

どのような外来生物も国内のどこかには定着できる環境がある、と考えておかなければなりません。

例えば沖縄にはグッピーを含む熱帯系の外来魚が多く定着しており、北海道にはニジマスやブラウントラウトのような冷水系の外来魚が定着しています。

加えて、それぞれの生物が侵入した時の影響の程度は、侵入して時間が経ってみなければ分かりません。

ブラックリスト制は、「侵入し、定着し、拡大してから」対応する性質のものにならざるを得ません。

国内で繁殖してしまえば持ち込みの制限には効果がほとんどありません。

気候や環境を含めてリスクを見極め、国内で飼育・販売・移動できる動植物、その地域で定着の可能性が低い生物やそれらの取り扱い条件を含めたホワイトリストを作成し、それにしっかりと規制をかける法を作る必要があります。

意図的な持ち込みは国内での人工的な繁殖・増殖を踏む場合も多くあります。

このため、後述するヒッチハイク型の侵入よりも意図的な持ち込みは広い地域で、密度の濃い侵入となる可能性があります

正確な把握と制御が可能な意図的持ち込みのルートに関しては、最大限の配慮としっかりとした法整備がなされるべきでしょう。

③ ヒッチハイクする生物

ヒッチハイク(混入)は、例えば輸送のコンテナに紛れ込むような、人が気付かずにたまたま運び込まれるようなルートのことです。

セアカゴケグモやヒアリなどが有名な例です。

 

ヒッチハイクによる生物の侵入は生涯大型の生物を除いたどの種においても起こる可能性がありますが、梱包材等の環境を好む小型の生物に多い傾向があります。

非意図的に持ち込まれる種に関しては、「ブラックリスト制」に近い対応がまずは必要です。

国内外での事例から侵略性・侵略リスクの高い種や危険なルート・エリアをおおまかに予測し、それに予算と対策を集中させるような方法です。

例えば気候条件の似た海外の港湾で定着例があるが国内ではまだ見つかっていない侵略性の生物などについて、どの港湾を経由するものがリスクが高いのか、どのタイミングでのどの種類の対策で侵入の可能性を減らせるかを、その選択肢ごとの費用対効果を含めて分析し、対策や規制の設置を計画するような形です。

港湾等において侵入初期の生物を検出することが可能な、継続的な調査システムの構築も必要です。

効果的に外来生物の影響を軽減するためには、どの外来生物・どのルートを重要視するかという基準作りと、どうモニターしどう効果を評価・改善していくかという体制の整備が早急に必要なのです。

ヒアリのように外来種一種であたふたする基盤の無さが一番の問題です。

全てを完璧に守ることが非常に難しいことを認め、侵入させたくない相手や侵入されやすい相手・場所から優先的に守り、入られた場合の初期対応を明確に順序立てておく、ということです。

④ 実際の仕組みと課題

では実際の国内の法制度はどうなっているかと言えば、穴だらけです。

日本には特定外来生物法(外来生物法)という法律があり、外来生物の中でも法的な扱いに差があります。

この法の中で「特定外来生物」に指定されている生物は、許可なく輸入・飼育・移動・運搬・譲渡・播種・放流等ができません。

ソース:特定外来生物法

これは「ブラックリスト方式」による管理で、基本的には持ち主が存在を知っている意図的な持ち込みを対象としています。

国内への侵入と定着に対する抑制効果があるのは当然、リストに載っている生物だけです。

しかもリストに載っている生物の多くは既に広く定着してしまった生物であり、これらは国内への定着の観点では指定される意味がありません。

ソース:特定外来生物

外来生物法は実質的には「国内での拡散」に的をしぼったもので、既に国内に定着した生物の抑制のために運用される法律、という性質があります。

そして外来生物法は生物を扱う人に制限をかける法律ですので、ヒッチハイクによって侵入するリスト外の生物に関してはなんら効力がありません。

つまり、国内への新しい生物の侵入を防ぐ予防的な効果がほとんど見込めないのです。

国内から国内へと移動した外来生物(国内外来種)も特に島嶼の生態系へ大きな影響を及ぼす場合がありますが、外来生物法では当然カバーできていません。

その他に、国外から動植物が持ち込まれる際には「検疫」が行われています。

ソース:植物の検疫
ソース:家畜の検疫

これにも外来生物の浸入を防ぐ一定の効果があります。

しかし植物や動物の検疫は農作物や畜産物に対して有害な「疾病」や「害虫」等に対象を絞ったブラックリスト制のもので、これも外来生物全体を見ているわけではありません。

つまりこれらの法律と仕組みは、ヒアリのような混入によって国内に持ち込まれるヒッチハイク型の外来生物や、特定外来生物に含まれていない外来生物の意図的な持ち込みに対して効果がないのです。

海外には管理が難しく、国内に侵入すれば甚大な被害を生じさせうる生物が無数に生息しています。

外来生物は、運ばれてくる物そのものや表面だけではなく、輸送される箱、梱包材、充填物、輸送船、作業員の個人的な持ち物などの場所を介して侵入します。

国内に定着した種や特定の病虫害だけを防ぐのではなく、「外来生物そのものの侵入を効果的に予防する」という観点で制度を作らなければなりません。

国内に定着した外来生物への対応についても課題があります。

外来生物法によって、国内に定着した特定外来生物の捕獲後の作業や研究のための飼育に許可や手続きが必要になるなど、管理の側面でのマイナスな効果も存在しています。

特定外来生物に指定されていない野外の外来鳥類や外来哺乳類は、在来の鳥獣と同様の扱いで鳥獣保護管理法によって捕獲が禁止されている状態です。

これらの手続きや許可は、初期対応や拡散の抑制を目的とした活動への障壁になっています。

関連する法律を一度整理する必要があるでしょう。

ヒッチハイク型の外来生物、意図的な持ち込みによる外来生物それぞれに効果的な法、制度、仕組み作りが必要です。

⑤ 外来生物とペットの今後

現在、外来生物の定着に関して非常に大きなリスクを持っているのが、ペット産業です。

アライグマやミシシッピアカミミガメなど、ペット由来で国内に定着し大きな被害を発生させている例が既に多く存在しています。

生態系への影響が甚大な例も多く、なぜか外来生物として扱われないノラネコ問題もその一つです。

これらの生物は、もともとペットであったり、まだペットとして飼っている家庭が一定数存在している種が多いため、感情移入がなされやすく、捕獲や駆除に対して極めて大きな抵抗が生じます。

そして被害を受け、対策を実施するのは、ペット産業とは無関係の人達です。

根本的な責任が無いにも関わらず、被害を抑制するために好きでもない捕獲や殺処分を担う人が生まれています。

そしてこういった人達が愛護団体等の攻撃に会うというような、極めてねじれた状況を生んでしまっているのです。

ペットとは、次の世代と社会に大きな負債を残すリスクを内包した存在なのです。

ペットを野外に放流・放出する行為は、もはや飼い主のモラルで片付けられる問題ではありません。

故意ではない逃走、逸失もあります。

購入された生物のうち一定数が遺棄や逃亡によって環境中に放たれる可能性を前提にした制度設計が必要です。

例えば、ペット購入者の情報を長期間保管することをペットショップ側に義務化する、個体識別が可能な状況のペットのみを販売可能にするなど、ペットの遺棄に対して抑制効果を持つ施策はすぐにでも必要でしょう。

ペットの飼育を許可制にし、研修等を受けた家庭のみが飼育可能になるような制度も良いかも知れません。

そして将来的には、国内のそれぞれの環境において定着のおそれがない種や条件でのみペットを飼育できるような、ホワイトリスト制へと移行すべきです。

ペット管理の制度について「駆け込み遺棄」等を不安視する声もありますが、制度はどこかでスタートされるものであり、それを理由に先延ばしにするのでは本末転倒です。

毎年のようにニュースになる遺棄された珍しいペットたちは、将来の環境と社会に対して大きな損害を生じさせる可能性を持つ生物兵器のようなものです。

ましてそれは、伴侶として人と生活するはずだった生物です。

未来の悪者を生まない法環境こそ、ペットとその文化の発展のために今最も必要なことではないでしょうか。

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