国内では、銃器の所持について厳しい仕組みが存在しています。
日本では、銃と言えば危険で排除すべきもの、という感覚を持つ方が非常に多いと思います。
一方で、その所持の仕組みや問題点についての情報はほとんど報道されません。
単純に銃を排除しようとすれば何が起こるのか?
今回は銃器の所持について調査したことをご報告します。
国内で銃器を扱おうと思ったら、大きく分けて2通りの方法があります。
一つは、警察官や自衛隊員のような銃器を扱う職業につく方法です。
今回はこれらには触れません。
もう一つの方法は、銃器の所持許可を受ける方法です。
ちなみに日本国内において特定の職業以外の人が「拳銃」の所持許可を受けることはできません。
拳銃は小型で隠して持ち運びしやすいため、凶悪犯罪に使われやすいからです。
日本ではエアライフル、エアピストル(競技用)、散弾銃、ライフルについて許可の制度が作られています。
銃器の所持には定められた目的があり、これらの目的の中でのみ銃器を使う許可が受けられる仕組みになっています。
目的 | 概要 |
狩猟 | 実際に狩猟に使うには狩猟免許と狩猟登録が必要
学術研究捕獲等の特殊な捕獲もなぜかこれに含まれる |
標的射撃 | 主にクレー射撃(散弾銃)を目的とした所持
ライフル射撃の場合は日本体育協会からの推薦が必要 |
有害鳥獣捕獲 | 市町村から受けた有害鳥獣捕獲許可が必要
有害鳥獣捕獲では狩猟登録を求められる場合が多いため 実際にはこの目的で所持を開始できない場合が多い |
銃器の所持目的は銃に関わる入口であり、目的に沿って明確かつ論理的であるべきなのですが、かなり無理を抱えた構造になっています。
ライフルの標的射撃では、ライフル銃を持ってすらいない者が推薦を受けなければなりません。
あるいは世のため人のため、有害鳥獣捕獲のために銃を持とうと思っても、まずは趣味の狩猟から始めろと言われてしまう(リンク先①)状態です。
特に社会的な要求の大きな有害鳥獣捕獲では、わなに大型のイノシシやシカがかかった場合を想定し、とどめを刺す際に危険だから銃を所持しようと考える人が多くなっています。
しかし狩猟免許を取得し、狩猟の目的で猟銃の所持許可を受け、都道府県の狩猟登録を経て、市町村の有害鳥獣捕獲の許可をもらうには、長ければ3年もかかってしまいます。
このため有害鳥獣捕獲を考えている人は、捕獲をあきらめるか、危険な場面を覚悟してわなで無理に捕獲するか、という判断を強いられているのが現状です。
わなのみで捕獲する場合、わなにかかって暴れまわる大型哺乳類を相手にナイフ等の刃物で対応することになります。
目的の部分で混乱した後、銃(散弾銃)を所持するまでには以下のような手続きを必要とします。
猟銃等講習会 | 猟銃の所持に関する講習会。
筆記試験に合格すると「講習修了証明書」がもらえる。 |
教習資格認定申請 | 射撃教習を受ける資格があることを示す手続き。
・講習修了証明書 |
火薬類譲受許可申請 | 教習射撃をうける時に使う弾の購入のための許可。
これを受けた後に弾を購入する。 |
射撃教習 | 実際に銃を用いて射撃を行う。
当日の練習の後、クレーを撃たせ、規定の枚数当てられれば教習終了証明書がもらえる。 |
譲受承諾書 | 銃の販売店や銃を譲渡してくれる人の承諾書。
銃を売るorあげる気であることを証明する。 |
所持許可申請 | ゴールである、銃を所持する許可の申請。
・講習修了証明書 この申請の間、警察による自宅保管庫の確認や、自宅周辺の人への聞き取り等が行われる。 |
このように、銃器を所持するには面倒な手続きが山積みなのです。
ちなみに、ライフルについてはさらに要件が厳しく、銃を所持してから10年を待たないとほぼ所持できない状況になっています。
そして銃を所持した後も、以下のような手続きが継続してあります。
猟銃の一斉検査 | 毎年、面接と銃の検査が警察署で一斉に行われる。 |
火薬類譲受許可 | 実包(弾)の購入の際に必要。
猟友会員であれば、狩猟における使用については無許可譲受証で済む場合が多い。 |
猟銃等講習会 | 経験者対象の講習会。
試験は無く、受ければ講習修了証明書がもらえる。 |
技能講習 | 猟銃の取り扱いに関する講習。
安全な運用や最低限の射撃水準をクリアしたら「技能講習修了証明書」が得られる。 |
所持許可の更新 | 所持許可は3年ごとに更新しなければならない。
更新には以下の書類が必要。 |
日本国内では、猟銃を用いた凶悪犯罪は世界的に見ても非常に少ない状況になっています。
これは、全員に対し毎年行われる一斉検査時の面接や確認が効いているのではないかと思います。
この面接において、金銭や人間関係上のトラブルが無いか確認がなされます。
一方、警察官の拳銃の所持にはこういった面倒な手続きや段階がありません。
皮肉なことを言えば、仕事を持ちながら猟銃の所持許可を受けるより、警察官になって拳銃を取り扱うほうが楽で簡単かも知れません。
しかし所持許可の煩雑な手続き全てが安全性の確保の面から有効かどうかについては、より広い視野で見なければなりません。
安全に関する”広い視野”の一つが、銃所持規制の厳しさが世代間で大きくなっている状況です。
銃の所持は年々厳しくなっていますが、それはつまり世代を遡るほど緩い基準で所持が許可されてきた、ということです。
ここには負のループがあります。
大型野生動物の捕獲や危機対応の場面において、猟銃と銃の所持者は一定数必要です。
しかし所持が厳しくなった若い世代がなかなか銃を所持できないため、高齢世代が優遇され、現役を無理に続行させようとする状況が生じています。
高齢者どころか後期高齢者の銃の所持と使用が結果的に進められているのです。
それ以外にも例えば、高度な技能と安全性が要求されるはずの有害鳥獣捕獲の実施隊員は、所持許可の更新の際に求められるはずの「技能講習修了証明書」が免除されています。
どういう事かと言えば、安全性が最も求められる年中捕獲を実施している銃所持者が「安全に銃器を運用できる能力の証明」を持たずに所持許可を更新し続けているのです。
これは、既に有害鳥獣捕獲が利権化している団体・世代(リンク先⑥)への、あからさまな保護・優遇措置でもあります。
優遇する理由は、有害鳥獣捕獲を実施する人数の危機的な状況にあります。
現在の銃所持者にまともに技能講習を受けさせれば不合格になる者が大勢含まれているため、この優遇措置が無ければ多くの自治体で有害鳥獣捕獲の担い手が確保できず、実質的に破綻してしまうのです。
そしてこの優遇措置が、高い事故率(リンク先④)となって表れています。
新規所持者を無理に狭めたがために、緩い基準で所持を許可した高齢の世代の技能確認を免除せざるを得なくなり、事故リスクを増加させているということです。
これは技能講習のみの話ではなく、銃器や捕獲に関するさまざまな制度に歪みを生んでいる根本的な構図です。
銃の所持に適さない人に許可を出さないことは当然ですが、適格な人の所持を阻害することは、”広い視野”で見た安全性の観点からは無理を生むのです。
それ以外にも制度に関わる問題が山積しています。
例えば、明確に問題を抱えているのがライフル所持に関する制度設計です。
動物の捕獲を目的とした銃器の所持には、3つのクラスがあります。
空気銃 (エアライフル) |
基本的に鳥類を狙う、火薬を使わない銃器。
技能講習が免除されており、所持が比較的容易。 止まった的を正確に狙う射撃。 |
散弾銃 | ライフルではない装薬(火薬を使う)銃。
弾や銃身の選択で鳥~哺乳類を広く捕獲対象とする。 クレー射撃のように移動する的を狙う射撃が多い。 |
ライフル | 銃身の半分以上にライフリングが施されている装薬銃。
イノシシ、シカ、クマ類のみを捕獲対象とする。 止まった的を正確に狙う射撃。 |
銃は銃でもそれぞれ運用方法も訓練方法も全く異なります。
ところが、現在の制度では装薬銃(つまり散弾銃)を10年持った後でなければ、ライフルの所持がほぼできない構造になっています。
これは非常に危険です。
強化すべき技能や安全性の確保の仕方が全く異なるのです。
短距離走の訓練を10年以上続けた人でなければマラソンに出場させないようなものです。
散弾銃では銃身を振って(動かして)的を撃ちますが、ライフルでは銃身を止め、止まった状態の的を狙って撃ちます。
これは、散弾銃(クレー射撃)の場合の弾の到達距離はせいぜい200~300メートルであるのに対し、ライフルだと2000~3000メートル到達する場合があるというような、安全確認を行うべき範囲などにも配慮された運用方法です。
散弾銃の訓練を10年続けた人にライフルを持たせれば、視認できない範囲まで弾が到達する可能性があるのに銃身を振りたがる捕獲者ができ上がってしまいます。
ライフルの所持までに10年という年月がかかることで、ライフルを所持している事自体がステータス(かっこいいもの)と化している部分もあります。
必要も無いのにライフルを欲しがる狩猟者をこの制度が作っているのです。
このライフル10年という制度は散弾銃との間にランクを付けるものなのですが、そもそもライフルのほうが根源的に散弾銃よりも危ないという事実はありません。
前述の通り、事故が発生するリスクは運用方法と訓練次第なのです。
現在の事故の多くは、銃に弾を込めたままでの移動や、矢先(撃つ方向)の確認不足というような、撃つ場面を逃すまいとする散弾銃的な運用で起こっています。
これは獲物を遠方で捉えてから準備し正確に狙って撃つライフル的な運用では起こりにくいものです。
散弾銃を入口とする制度は、現状の捕獲対象にも全く合っていません。
現在はイノシシやシカといった大型哺乳類を対象として銃を所持する人がほとんどです。
しかし散弾銃を用いて大型哺乳類を狙う場合、6~9粒の弾をバラバラに撃ち出す弾か、ライフルよりも圧倒的に集弾性の悪い1発弾のどちらかを使うことになります。
山林でイノシシやシカを狙う場合、矢先の安全確認がライフルよりも難しい弾を使用せざるを得ないということです。
ライフルを散弾銃の延長と捉える意味も根拠も不明な許可体系が事故を育てています。
日本の捕獲の実際から考えて、銃所持の入り口として散弾銃は全く適していません。
銃器は目的と使用方法にあった種類を所持し訓練すべきもので、銃に無意味なランク付けをした上に全体をまとめて使用経験で判断するというのはあまりに無計画すぎます。
事故ではなく事件に利用されるリスクはどうかと言えば、これもライフルが特別危険というわけではありません。
例えば海外では、ソードオフ・ショットガンと呼ばれる改造された散弾銃が凶悪犯罪に利用されるケースが多く、殺傷能力も非常に高いものになります。
どうやら、このライフル10年の規制ができた昭和46年頃に銃の所持者が増加していた(リンク先②)こと、ライフル銃が使用された事件が複数発生したことが制度発案の背景にあるようです。
ケネディ大統領暗殺事件も、当時の警察側の懸念としては大きかったのではないかと個人的には考えています。
しかし、ライフルが用いられた国内の事件でも「ライフルが散弾銃であれば発生しなかった事件」はありません。
ライフルに10年の装薬銃経験を課す経緯をどれだけ調べても、論理的な根拠は出てきません。
(興味をお持ちでしたら「ライフル 10年 由来」で検索してみて下さい。)
ライフルはライフル、散弾銃は散弾銃と許可区分を分け、初年度からそれぞれに適した安全性の訓練が開始されるよう、早急に制度を改めるべきでしょう。
銃というのは弾が無ければ発砲できません。
このため、実包や火薬を厳密に管理しようとするのは理解できるのですが、現状の制度は空回りしています。
一つの問題として、実包(火薬と弾頭が入った状態の弾)の遺棄事例が多く発生している現状があります。
残念ながら犯人はほぼ特定できません。
銃の所持者は「購入数ー使用数ー残弾数」を記録する義務があるため追跡できるように思うのですが、実際は非常に難しいのです。
狩猟や有害鳥獣捕獲で銃を使う場合、山林内でどれだけ発砲したか(使用数)は本人でなければ分からないため、帳簿を簡単にごまかせるからです。
目を向けるべきは「捨てる理由」で、単刀直入に言えば「購入した弾の使用期限が設定された状態」に問題があります。
購入した弾の使用期限は、狩猟の際に用いる「無許可譲受証」で購入した弾について1年、有害鳥獣捕獲の場合は捕獲許可が切れた時点から3か月と設定されています。
これが「消費できずに遺棄し、帳簿をごまかす人」を生じさせています。
帳簿上は恐らく、狩猟で使ったことになっているはずです。
危険だしもったいない(弾本来の使用できる期間はかなり長い)ので、基本的に弾を捨てたいと思う銃の所持者はいません。
しかし目的もなく弾を撃つわけにもいきませんから、弾が余れば期限内に射撃場等に行き消費せざるをえないのですが、現在射撃場はとても少なく、移動費や射撃場利用料が生じ、日程調整等の手間が生じるために捨てる人が出てきます。
当然この行為自体は批判すべきなのですが、取り締まりが難しい現状で元来捨てる必要も無いものを投棄させている制度には明らかに問題があります。
制度設計については、以下のように見直すべきでしょう。
・銃の所持許可を火薬類の購入・所持許可と兼ねた許可とし、銃の所持目的と弾の使用目的を兼ねる
・少なくとも、無許可譲受証の制度を廃する
・自宅に保管できる弾数の上限(現状800発)を大幅に減らし、必要な人の申請があった場合のみ上限を段階的にあげる措置をとる
・一斉検査時に申告された残弾数と帳簿の整合について、毎年一定数の所持者に対し抽選で検査を行う。
こうすれば銃の所持者は弾の購入に関して余裕ができ残弾をごまかす必要もなくなるため、弾の出入りがゆるやか且つ正確になって追跡と把握もしやすくなります。
警察の考え方は恐らく「銃も弾も無ければ事故も事件も起こらない」というものです。
そのために入口となる所持許可を厳しくし、時間と手間をかけさせ、とにかく”嫌がらせ”をして所持者数を絞っていくという戦略を様々な分野で選択してきたのではないかと思います。
これまでの事例を見聞きしていると、銃の所持許可申込の窓口で担当警察官から理不尽な扱いを受ける人も多くいたようです。
しかし散弾銃やライフルを所持している警察官はほとんどいませんから、拳銃以外の銃器を運用する際の危険性や課題について警察側も明確な根拠を持っているわけではありません。
制度や対応の中にも、実際には無意味であったり逆効果となるような、イメージが先行したものが驚くほど多くあります。
いわゆる縦割りの問題もあります。
銃所持者が減少し農林水産被害が増加しても、警察は管轄が全く違いますから、被害についての文句を言われぬまま知らぬ顔を続けることができます。
その結果として特措法のような制度の歪みが返ってくるのです。
しかし、警察もそろそろ無視できなくなってきたのではないでしょうか。
大型獣類による人身事故、交通事故、都市部や住宅地への侵入、捕獲時の逆襲事故というような、捕獲者の減少に起因する問題が多数発生しているからです。
高齢の銃所持者による事故という、制度上の弊害も生じさせています。
”広い視野”に立てば、これらは無理を伴った銃器所持への締め付けの結果発生する人災なのです。
この点ははっきりと、無責任であると言わなければなりません。
銃は使い方を誤れば当然危険です。
だからこそ、イメージではなく実際の効果をしっかりと見据えた制度設計が必要なのです。
動物を捕獲する銃器は社会的に十分な需要とメリットがあり、銃所持への締め付けには相応の副作用がある現実を踏まえて、リスクと同時に公益に照らした制度設計が必要です。
なすべきことは以下のようなものです。
【不適格者に銃を持たせない】
有害鳥獣捕獲実施隊員への技能講習の免除を廃する
猟銃等講習会の経験者講習でも一定の試験を課す
【不適格者のより分け以外の手続きを整理する】
所持目的の区分を現状に即して整理する
火薬類譲受の許可を銃の所持許可と合わせる(無許可譲受証を廃する)
必要書類の様式を問題無い範囲で統合し、無駄な重複項目を廃する
必要書類の記入例等をわかりやすく提示する
【事故に配慮した所持許可システムへの変更】
ライフルと散弾銃の所持許可と適正試験を分ける
空気銃、散弾銃、ライフル銃それぞれに狩猟免許を分ける
【屋外での取り締まりを強化する】
猟期の見回りを実施し、監視体制の実質的機能を強化する
(理由はこちら:リンク先④)
これらが実施されれば、世代間の銃所持者数の偏りによる弊害や、事故の発生率をある程度緩和することができるでしょう。
都道府県で銃の所持に際して細かな対応や要求に差が生じる事も非常に多いのですが、これも是正すべきです。
こういった要求の差は法に規定されているものではなく、銃に関する知識や視野が不足した担当者のイメージによる根拠の無い無意味な要求・逆効果な要求となる可能性があるためです。
あらゆる道具は、使い手・制度・環境次第でリスクと価値が変化します。
その前提に立って、社会全体での銃器のリスクを評価しなければなりません。
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