大型哺乳類によって生じる問題の背景

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近年、シカやイノシシ、クマといった大型哺乳類が引き起こす問題が大きく報じられるようになってきました。

草を食むシカ

農作物や林産物を食べてしまったり、交通事故を起こしてしまったり、ダニやヒルを増加させてSFTSのような感染症を蔓延させる間接的な原因になってしまったりといった問題です。

ヤマビル

シカについては森林内の草木を食べてしまい、森林の持つ土砂災害を防ぐ機能や水を保持する機能を低下させてしまうことも問題となっています。

シカの影響  柵の内側だけ植物が残っている

環境省の調査においても、近年すべての大型哺乳類で生息分布が拡大し、個体数が増加している可能性が示されています。

リンク:環境省の生息分布調査資料
リンク:環境省のイノシシ・シカの個体数推定資料

大型哺乳類について、なぜこのような状況になったのか、調査した結果をご報告します。

① 山林利用の減少

シカやイノシシが人里に出てくるのは森林の開発によって山に餌がなくなったからだ、という意見をよく耳にします。

実際にはどうなのでしょうか。

以下は、農林水産省及び経済産業省の統計から作成したグラフです。

リンク:農林水産省統計ソース
リンク:経済産業省統計ソース

どうやら事実は大きく異なります。

第二次世界大戦の後、日本は薪や炭といった山林で得られるエネルギー源から石油や石炭といったほぼ輸入に頼ったエネルギー源への変化を遂げています。

加えて国内の木材生産に伴う伐採も、近年は戦後最少という状況です。

日本は木材生産のために、天然林を切り開いて人工林を増やしていく「拡大造林」という政策をとっていましたが、それも50年も昔の話で、近年になって大型哺乳類の出没が増加した理由にはなりません。

つまり、現代の森や山は人の手が入らなくなった状況であり、その中で大型野生哺乳類の増加が起こっているのです。

② 狩猟者の減少

現代における大型哺乳類の天敵と言えば、狩猟者です。

その狩猟者も危機的な状況にあります。

以下は、環境省の統計情報から全国の狩猟者数の推移を示したグラフです。

全国の狩猟免許所持者数の推移

狩猟者は昔に比べて減少していますが、下げ止まっているように見えます。

ところが、実際はどんどん危機的になっています。

以下は岐阜県のニホンジカ第二種特定鳥獣管理計画内のグラフです。

岐阜県の狩猟登録者の年齢構成の推移

リンク:岐阜県ニホンジカ管理計画

一つの地方自治体のデータですが、狩猟者の年齢構成の山がどんどん高齢のほうへ押し流されているのが分かります。

捕獲者の数が持ちこたえたとしても、高齢者マークをつけた狩猟者が大半という状況になってしまうことが予想されます。

山林での動物の捕獲という危険かつ労力の大きな作業を、高齢者に依存しかねない状況になっているのです。

② 狩猟者の減少 続き

なぜ狩猟者は減少しているのでしょうか。

狩猟者に聞いた際によく聞くのが以下の内容です。

・怪我をした、体力的にきつくなった
・猟銃の所持が厳しくなった
・肉が売れなくなった

狩猟は体力を使う作業であり、怪我や衰えで引退するのは致し方ありません。

問題は新しい世代が入ってこない状況のほうです。

データで見ると、昭和50年代に若い世代が参入しなくなっていったのは肉の価格に原因がありそうです。

以下のグラフは、全国の豚の枝肉生産量と岐阜県の狩猟登録者の推移を重ねてみたものです。

狩猟免許所持者数(岐阜県)と枝肉生産量の推移

リンク:豚の枝肉生産量ソース
リンク:岐阜県イノシシ管理計画資料編

豚の枝肉生産量がピークに向かうタイミングで、狩猟者が激減しています。

特にイノシシは豚と非常に味が近く、肉として競合します。

職業としての狩猟者がいなくなったのは、畜産の復興による肉の価格の下落が大きな原因でしょう。

戦前はそれなりに畜産が発達していたようですので、第二次大戦終戦直後の獣肉の需要はむしろ戦争の混乱による特別なものだと考えられます。

畜産の肉が安定的に供給されている現在の状況が通常と考えるべきかも知れません。

現状では、狩猟で得た肉に十分な対価を得ることは難しいでしょう。

③ 鳥獣の保護政策

食糧難と毛皮の需要のため、実は戦後のニホンジカは絶滅を危惧されるレベルまで減少していました。

これまで狩猟が禁止された中型~大型の哺乳類と期間は以下の表のとおりです。

動物種 禁猟期間
ニホンジカ(メス) 1948 ~ 2007(全面解禁)
ニホンザル 1946 ~ 現在
ニホンカモシカ 1925 ~ 現在
ツキノワグマ 自治体によって禁猟期間あり

リンク:狩猟鳥獣の変遷(生物多様性センター)

現在は多くの自治体でメスジカの狩猟頭数の制限も解除されていますが、過去のメスジカの禁猟期間は個体数の回復に大きく影響したと考えられます。

一方で、イノシシのように禁猟期間が無いのに生息分布を広げている種もおり、当時の保護政策のみが問題であったとは言えません

これらの政策が無ければシカやサルが絶滅していた可能性もあります。

しかしこれらの生物が増加してしまった現在も、猟期が特定の期間に制限されており、狩猟により一年中捕獲ができるわけではありません。

この点については適切な形に見直す(リンク先③)必要があります。

④ ニホンオオカミの絶滅

ニホンオオカミの絶滅によって大型哺乳類の天敵がいなくなったことが、シカやイノシシの個体数増加の背景として指摘されています。

ニホンオオカミが最後に確認されたのは1905年です。

実際には最後の確認よりかなり以前に減少が始まっていたでしょう。

ニホンオオカミ絶滅の原因は、駆除や犬からくる伝染病、餌の枯渇等の複合的な要因だと言われています。

戦前は山林の利用が非常に活発であり、17世紀以降は猟銃の出現によってシカやイノシシの捕獲が高度になってきました。

この頃からシカやイノシシの天敵はオオカミというよりは人間だったと考えられます。

そしてニホンオオカミ絶滅の社会への影響は、猟師が多く存在している間(つまり近年まで)ほとんど議論されませんでした。

ニホンオオカミの絶滅が大型哺乳類増加の遠因になっていることは否定できません。

しかし過去100年程度の期間では、どちらかと言えば猟師の存在のほうが数の抑制に対して重要であったと見ることができます。

なお、オオカミの導入によるシカの抑制についてはこちらにまとめてあります。

⑤ まとめと今後の予測

大型哺乳類の増加はいくつかの要因の組み合わせで起こっています。

明らかなのは、人の状況を含め日本の環境が大型哺乳類にとって都合のよい状況になったために現在の問題が起こっているということです。

大型哺乳類は住処を追われたわけではなく、住処が拡大し、人の生活圏と重なるようになったために多くの問題を引き起こすようになりました。

今後はその生活圏の重複が続くことによって問題がさらに激しくなっていくと考えられます。

これまで大型哺乳類は人を警戒して同じ場所での活動を避けてきましたが、生活圏の重複が続けば人馴れが生じます。

ヒルやダニ、感染症、農業被害、交通事故は動物の分布拡大に伴って範囲が拡大していき、動物の人慣れによってこれらが悪化し、より深刻な状況が発生することを今後は覚悟しなければなりません

それを制御するためにも、正確な現状把握と根拠を伴った対策が必要なのです。

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