鳥類や哺乳類のほとんどは「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」によって捕獲が禁止されています。
ソース:「鳥獣保護法」
野生の鳥類や哺乳類の捕獲では、おおまかに分けて以下のような許可があります。
狩猟 | 狩猟免許と狩猟登録が必要な、個人の趣味的な捕獲。
都道府県が許可・管理する。 |
有害鳥獣捕獲 | 被害の抑制を目的として許可される捕獲。
ほとんどの地域で、市町村が許可・管理する。 |
個体数調整捕獲 | 個体数が増えすぎた種に対する緊急的な捕獲。
都道府県が計画を作成し、それに基づいて実施される。 |
学術研究捕獲 | 研究目的で許可される捕獲。
都道府県が審査し、許可・管理する。 |
今回は「狩猟」に関する仕組みや問題点について調査した結果をご報告します。
狩猟は、ハンターが野生動物を捕獲する趣味のことです。
現在は「狩猟免許」という試験があり、それに合格した者が各都道府県で「狩猟登録」を行って狩猟をしています。
狩猟には「猟法」「狩猟鳥獣」「狩猟期間」等の定めがあり、これらを守らなければなりません。
近年は動物の殺生自体が禁忌のように扱われていますが、人間社会の維持のために狩猟は多くの利点を持っています。
近年は増えすぎた動物を捕獲することによる自然環境のコントロールが第一に取り上げられています。
もちろん、それ以外にも利点があります。
一つは、野生動物の生息状況や増減傾向のモニターです。
野生動物は山林内に隠れて生息しているため、まともに調査を行おうとすれば莫大な予算と人員が必要です。
人間では700億円をかけ80万人を動員する国勢調査がありますが、野生動物にはそんな調査はありません。
現在は、ハンターが報告する狩猟データを収集し分析しなければ鳥獣の動向が把握できないほど、狩猟者の”調査者”としての機能が重要になっています。
狩猟鳥獣以外の種についてもアンケートの形でデータを収集しはじめている地域もあります。
狩猟者は狩猟登録の際にお金を支払っていますので、「金を払ってでも調査してくれる」非常に低コストな調査員なのです。
もう一つは、環境への影響が少ない肉の供給です。
意外に思えるかも知れませんが、畜産のような飼育行為は餌や飼育環境の調達によって、狩猟で動物を狩る場合よりも大きな負荷を環境にかけています。
肉を生産するためには肉の重さの数倍~数十倍の餌とそれをまかなう土地、廃棄物の処理、衛生管理のための物資などが必要です。
これは養殖魚の分野でよく話題に上がりますが、畜産でも当てはまる視点です。
ソース:養殖業の限界
狩猟は十分にコントロールされた状態であれば、社会的に見ても大きな価値があるのです。
狩猟の課題はそのコントロールにあります。
まず、選定されている狩猟鳥獣を見てみましょう。
狩猟鳥獣とは、狩猟によって捕獲しても良い種のことです。
こちらのページにまとめてあります。
現在の狩猟鳥獣には、IUCNや環境省のレッドリストで準絶滅危惧以上に相当する種が含まれています。
これらの狩猟鳥獣より絶滅リスクの低い生物は国内にたくさん生息しているのに、なぜこのような状況になっているのでしょうか。
理由は恐らく、狩猟鳥獣の変更にかかる手間と時間、環境省のパワーです。
狩猟鳥獣を変更する場合、中央環境審議会に通して大枠が決まりますが、実際にはそれ以前に環境省の内部で利害関係者との調整が行われているはずです。
現在狩猟鳥獣は48種が選定されていますが、狩猟者団体は1種外す場合は同価値の他の1種を入れろと要求する場合が多いようです。
ところが現在狩猟鳥獣に選定されている種以外では、生息数や生息動向についてまともな調査がほとんど行われていません。
狩猟の対象ではないため、狩猟者によるデータも存在しません。
環境省は1500人程度の小規模な組織で、許可関係の事務が多く事業の予算もほとんどないため、十分な調査が計画できていません。
その中で公害、廃棄物、放射能、温室効果ガス、自然公園など、他の事務も大きなウェイトを占めており、野生動物や狩猟の事業に手が回らなくなっています。
ソース:環境省予算
そんな状況であるため、今度は逆に野鳥の愛好団体等が「そんなデータもない状況でその種を狩猟鳥獣に入れるのか」との意見を出してきます。
結局「現状維持でいくしかない」ということになります。
こういった狩猟鳥獣候補のリスト等の事項は、事前に環境省内で議論されるものであるため、会議時間の限られた中央環境審議会の議題とはなりません。
狩猟鳥獣を”効果的・適応的に”選定する仕組みの再構築が必要なのです。
加えて狩猟鳥獣のリストには、識別が難しい狩猟鳥獣が含まれています。
特に散弾銃を用いた狩猟では、バードウォッチングのように双眼鏡等で相手を識別することをしません。
野鳥観察の場面ですら類似種との識別が難しい狩猟鳥も多くいます。
ほとんどの場合において「狩猟鳥獣だろう」との推測で狩猟されています。
後述しますが、狩猟鳥獣をしっかり判別できる警察官はほとんどいませんので、「狩猟鳥獣以外の種の捕獲」については取り締まりもほぼ皆無です。
狩猟の免許を細分化し、瞬時の判断が要求される銃を用いた鳥類の狩猟については狩猟免許をより厳格にすべきで、更新時に試験を課すような改善が必要でしょう。
自然環境関連の犯罪や違反を専門とした警察官の配備も検討すべきです。
狩猟には、増えすぎた動物を抑制する効果が何よりも期待されています。
その観点から狩猟制度を見てみましょう。
狩猟には「猟期」と呼ばれる狩猟が可能な期間が定められています。
ところがこの猟期は、現行法上で可能な限り長く設定しても10月から翌4月までの半年間程度で、残りの半年間は狩猟ができません。
増えすぎた動物の抑制の観点では、効果を半減させている状態です。
さらに、狩猟をする場合、狩猟免許の取得に加えて狩猟登録という手続きを毎年踏まなければなりません。
これは罠であれば年10,000円、銃であれば年18,000円程度の負担となり、新規の狩猟者を獲得する際の大きなハードルとなっています。
全国で見れば、鳥獣による被害は農業被害だけで190億円であり、捕獲報奨金へはこれより膨大な額が支出されていると思いますが、狩猟登録料等による総収入は19億円程度しかありません。
もはや意味のある金額ではありません。
狩猟者を獲得し、捕獲圧を高めたいのであれば、シカ、イノシシ、外来生物等の数を抑制すべき対象種に限っては、狩猟登録や猟期の制限を外すべきでしょう。
つまり、全国的に増加して問題を生じている種や外来生物に関しては狩猟免許のみで通年狩猟できるようにする、ということです。
なぜそうならないのでしょうか。
実は、猟期の期間外に存在する「有害鳥獣捕獲」という捕獲の仕組みが作用しています。
もし通年猟期が設定されてしまえば、有害鳥獣捕獲の際の報奨金が得られなくなってしまいます。
この利権を守るために狩猟者団体等が抵抗するのです。
現在の制度では、有害鳥獣捕獲に参加していれば狩猟登録費用の負担も免除される仕組みとなっており、狩猟登録がハードルになっていれば新しい狩猟者(ライバル)も増えないので一石二鳥というわけです。
捕獲者の思惑についてはこちらをご覧ください。
しかし目的とする効果から見れば本末転倒な話です。
まずは狩猟制度全体を見渡し、科学的なデータに基づいた狩猟鳥獣や猟法の選定ができるようデザインを考え、そのデザインの具体化のために予算をつけることが必要でしょう。
こういった利害関係を明確にし、それに振り回されない環境で狩猟制度を議論しなければなりません。
次に、狩猟に関連する事故を見てみましょう。
以下の表は、日本と米国の狩猟関係の事故を比較したものです。
日本 | アメリカ | |
狩猟による年間の死者数 | 約6人 | 約100人 |
狩猟人口 | 16万人 | 1370万人 |
狩猟人口/国土面積(平方キロ) | 0.423 | 1.393 |
死者数/狩猟人口×10000 | 0.375 | 0.073 |
米国は圧倒的に狩猟者人口が多く、実は狭い島国である日本より米国のほうが3倍以上も狩猟者の密度が高い状態です。
しかし、狩猟人口あたりで換算すると日本は米国の5倍の事故発生率となっています。
狩猟環境やその他の背景があるにせよ、狩猟者が過密で狩猟が盛んな銃大国の米国よりも、日本の人数あたりの事故発生率は高いのです。
主な理由は恐らく、密室化した狩猟環境です。
狩猟歴の長い狩猟者に多いのが、「ガサドン」と呼ばれる獲物の確認をしない発砲や、弾を装填したままの銃の持ち運びです。
見つけた獲物を逃さないために、弾を入れたまま銃を持ち運び、ガサガサと音がしただけで撃ってしまう、という恐ろしい狩猟者が存在します。
日本は、銃の所持許可については世界でも指折りの厳しさだと言われます。
しかし、現在猟銃を持っている高齢の世代の多くは所持許可の要件が厳しくなる前に銃を所持しています。
銃所持の課題についてはこちらをご覧ください。
そして、山林に入って行われる警察の取り締まりは現在ほぼ皆無です。
実は、鳥獣保護法の中で都道府県職員が「特別司法警察職員」という立場で警察に準ずるような逮捕等の権限を有する仕組みが存在しています。
しかしこれは完全に形骸化しています。
以下は、警察及び特別司法警察職員の動員数と検挙件数(H24~26のべ数:全国)です。
警察 | 特別司法警察職員 | |
動員数 | 12,250 | 3049 |
検挙件数 | 726 | 9 |
警察を1とした時の 特別司法警察職員の検挙効率 |
1 | 0.05 |
ソース:鳥獣関連統計
都道府県職員は膨大な通常業務を抱えており、山林内へ監視に入る場面そのものがほとんどありません。
山林内へ監視を届かせようという制度が全く機能しておらず、取り締まりの効率も非常に悪いのです。
この他に、狩猟の取り締まりを補佐する役割を持つ「鳥獣保護管理員(旧鳥獣保護員)」という制度もあるのですが、こちらも形骸化しています。
鳥獣保護管理員は採用に際して関連法などの専門的な知識が問われる場面がほとんどなく、本来取り締まられる側であるはずの狩猟者団体の構成員が採用されることも多くあります。
鳥獣保護管理員は、人数は多くても稼働日数が少ない、都道府県職員も素人であるため適切な仕事が指示されないなどの問題も抱えており、実効的な機能をほとんど有していません。
つまり捕獲したものが狩猟鳥獣か、猟法やその他の法令を遵守しているか等を、フィールドでは誰も監視していません。
頼みの綱の警察官ですら、猟法や屋外の猟銃の取り扱いについて何が違反となるのか、しっかり把握していない人もかなり多くいます。
こういった取り締まりの空白によって狩猟環境の密室化が進み、”狩猟者の身内ルール”が蔓延した結果、通常の感覚では到底理解できない違法行為が常態化しているのです。
猟銃が犯罪に使われた例ではそれ以前に他のトラブルを起こしている場合が非常に多いため、事件を起こす素因を持つ人を早期に見つける意味でも屋外での取り締まりは重要です。
狩猟やその他の捕獲が行われる山林内まで影響が及ぶような取り締まり体制が早急に必要なのです。
銃で狩猟を行う場合は狩猟免許や狩猟登録に加えて「銃の所持許可」を受ける必要があり、この制度についても多くの問題があるのですが、それはこちらで別にまとめています。
猟銃の存在自体が危険で不要かといえば、そうではありません。
どのような道具でもそうですが、重要なのは安全で効果的な運用と、それを担保する仕組みです。
例えば、わなにかかったイノシシ等の逆襲による人身事故が多く報告されるようになっています。
ソース:狩猟事故統計
大型のイノシシなど、わなにかかり興奮状態になった鳥獣のとどめを刺す場合に最も安全なのは、適切な距離が取れる猟銃による”止め刺し”です。
近年は仕事をリタイヤした60代が親から引き継いで農業を営み、鳥獣被害に困ってわな猟を始めるケースが多く見られます。
特に高齢の狩猟者のわなで不意に大型のシカやイノシシがかかったり、クマ類が混獲された場合、猟銃を持った捕獲者が必要になります。
銃が無ければ、俊敏で攻撃的になった大型獣にナイフやロープのみで高齢者が対応することになります。
近年は、市街地等に迷い込んだり人に慣れて危険な行動を示す大型獣が多く報告されるようになってきています。
猟銃という選択肢の存在がさらに重要になってきているのです。
猟銃については野外で十分に取り締まりが可能となるような体制整備が必要であり、安全な運用方法へ誘導する施策が打たれていくべきでしょう。
狩猟における銃の使用については、弾頭に鉛が使われていることも問題となっています。
半矢(弾は当たったが逃げた個体)の個体が野外で死んでしまった場合、傷口には細かく砕けた鉛が付着しています。
それを肉と一緒に猛禽類が食べてしまうと鉛中毒が発生します。
カモを狙った銃による捕獲においても広く鉛の散弾が使われています。
カモの仲間では、巻き貝等と一緒に鉛の弾を飲み込んで鉛中毒を起こす場合があります。
北海道は現在、鉛を含んだ弾頭を狩猟で用いることが禁止されていますが、この鉛中毒の発生が一つの理由です。
本州、四国、九州にも、保護が必要な猛禽類や狩猟鳥でないカモ類が当然生息しています。
狩猟後に人が食肉として利用する場合を考えても、鉛が含まれている可能性があることは大きな問題です。
鉛中毒も問題なのですが、そもそも汚染が問題視されている鉛を環境中に拡散し続けている状況だけ考えても、これは見直すべきでしょう。
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この内容は「猟友会」「有害鳥獣捕獲」の調査結果と合わせてご覧頂くことをおすすめします。
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